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特別企画「Update Vol.1」

2019.2.4(Mon.)

13:00-18:00

ウイングカップ9の参加作品全8作品への講評・感想の交流を行い、言語化することを

目的として開催。単なる感想を述べるのではなく、「なぜそう感じるのか」に焦点を

あて、自身のより良い劇作・観劇体験の手助けになると考える。

今回は平日の昼間にもかかわらず、のべ8名の方々にご参加いただいた。

今後は、同様の企画をカンパニーに打診し、継続的にこの企画を行うつもりである。

創作者にとっては「観客の視点」を得て創作のアップデートにつながるような、

​観客にとっては新たな見地を得ることで自らの観劇体験のアップデートにつながるような企画へと今後つながるようにする予定である。

​講評会アーカイブ(順次公開予定)

劇団三日月「PUNKY SIXTEEN BOY」
劇団三日月「PUNKY SIXTEEN BOY」

《後夜祭での講評の論点》

・自分の「こうしたい」がまっすぐに表出されていて、「お話を作る」ことに重きを置いていた→ある種の都合のよさがあった

・こじんまりとしていて、世界が小さくなってしまった。ドラマで描かれている部分以外の主人公の世界が見えてこなかった。

・映像は観客が想像できるようなものを。

・お話に頼りすぎている。バランス感覚が重要。

​「Update」でも、「なぜ主人公は死んだのか」「テーマにつながるのか」など、作品そのもの以上に作品の「お話」に言及されることが多かった。その分、「お話に頼りすぎている」という視点がなかったように思われるので、物語そのものと「作品全体」を分けて考えることができるような時間配分や思考の流れを今後は生み出したい。

東洋企画「FASHION」
東洋企画「FASHION」

《後夜祭での講評の論点》

・総合して一番完成度が高かった。

・台本が弱い。Cocoの追い詰められ方・事件の動機・その後をもっと人間的に深く描けていたらよかった。メインプロット以外のプロットの扱いが雑。主人公の一挙手一投足にハラハラしたい。

・作り手が「FASHION」に興味がなさそう。それならば何を描きたかったのか?一人の少女の転落?それは語り尽くされている物語。既視感を覚える。そのことに対してあまりにも無自覚。どこかで安住している。作家が自身をさらけ出した部分がオリジナリティーとして現れるのでは。

​「インフルエンサー」「FASHION」というテーマで議論が起きたが、そもそも作り手にはそこへの興味がないという視点は無かった。参加者が若い世代(20代中心)であったゆえに、「インフルエンサー」ということに敏感だったのかもしれない。

​ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。「盲目の動物」
ナマモノなのでお早めにお召し上がりください。「盲目の動物」

《後夜祭での講評の論点》

・スムーズに大人の階段を上った人にとってはとるに足らない話だが底を粘ったのがよかった。思春期の少女の感覚をビビッドに舞台にあげることに成功している。

・主人公の「めんどくささ」を出すための前半の反復のシーン。

・エンドがふたつあることが面白い。しかも観る側がそれを選べない。別エンドの存在がわかるのは他者との交流でのみ。SNSは「見たいものしか見ない」を促進したのに対し、この作品はそのような見る側の権力や暴力を拒絶している。

議論でも「マルチエンディング」については長い時間色々な意見が出たが、割と否定的な意見が多かった印象であった。その中で審査員の方の「見る側の権力や暴力を拒絶している」という観点は非常に面白いものであった。否定的な意見が出ていながらも、作り手はそれを選択したということを踏まえてどのように肯定的にとらえられるかということも考えてゆきたい。

​劇団なつみかん「12」
劇団なつみかん「12」

《後夜祭での講評の論点》

・役者の動かし方が上手い。12人でウイングでエンタメ芝居ができるのだと思った。モブキャラクターの演技・使い方が上手かった。

・劇団の中の良さが垣間見えた。

・劇中劇でロミジュリを使ったなら、日常にも反映させたら面白かった。

・内容なんか無くても楽しければいいと思った。

・日常パートがわかりやすすぎた。もっと散らかってていい。

・ツッコミどころが多いのを面白がれた。

参加者の中からも「わかりやすかった」という意見は出たものの、講評会で評価された「楽しそう」に対して否定的な意見が多かった印象がある。しかし、舞台上の出来事や人物に没入することを想定せず、ペンライトを持ってスタンディングの客席にするなど、「体験型演劇」にしたらよかったのでは、など楽しむ観点が生まれたのがよかったと感じる。

​ハコボレ「はこづめ」
ハコボレ「はこづめ」

《後夜祭での講評の論点》

・2人から3人になっても、元々いた2人の関係性が変化しなかった。ドキドキするような関係性に欠けていた。

・終盤20分のどんでん返しに無理がある・都合がよいのでは。布石をもっと前から打っていたらよくなった。

・感情の振れ幅が大きいのがよかった。役者が達者で、ずっと集中してみていられた。やり取りをすることに魅力がある。

・チラシなどのビジュアルがとてもよかった。こだわりが詰まっている。

「感動することを強制させられている感覚」から議論の口火が切られた。それはおそらく「ディティールの細かさ」と「その説明によって生じる矛盾」と「都合よく書き換えられる人物・設定」に対する違和感から生じる感覚だと考えられる。

​また、世界観に説得力があるのに3人以外が出てこないことや性格と行動の矛盾などで人間に説得力がなかったという意見もあった。

​右脳中島オーボラの本妻「踊る!惑星歌謡ショー」
右脳中島オーボラの本妻「踊る!惑星歌謡ショー」

《後夜祭での講評の論点》

・小劇場でできることを全部やったったという感じ。ここまでウイングを使い倒したのは面白かった。

・小さなお茶の間から宇宙までどんどん世界が広がっていく面白さがあった。次何が来るのかわからないワクワク感。

・劇の虫に感じた危うさは無かった。こういう作品で仕上がってしまうことはどうなんだろう。

・スケジュールも含めて演出だったらすごいと思う。

​「Update」でも後述の劇の虫との比較があった。また、俳優のテクニカルな部分に統一感があり、それによって「見方を決められてしまう感覚」などの意見も上がった。作家の脳内世界の表現であると仮定して、その表現にどれくらいの客観性を持たせていたのか?など、作り手としての意見が活発に生まれた。一番講評会と「Update」で評価の差が大きい作品だったと感じる。

​かしこしばい「河童ライダー」
かしこしばい「河童ライダー」

《後夜祭での講評の論点》

・楽しかった。作品全体に疾走感があった。よくわからない話だけどわかりやすい。それは、核心がはっきりしているから。台本の強さがあった。完成度は高かった。

・作家の無限の想像力によって生み出された「河童」がおばあちゃんでもある。そこで無限ではなく自己の意識に結びついてゆくという説得力があった。

・最後に浄化されるからこそ、この劇を通して主人公がどうなりたいかをもっと早く提示していればよかった。

・何でこのシーン足したの?が見られたのは小劇場ならではかなと思った。

​今回の参加者はほとんど「作り手」側の方だったため、やはり主人公の「劇作」に焦点が置かれた印象。オリジナルの楽曲についても、「他の曲も作ればもっと世界が進化したのでは?」や「既存だからこそ主人公が作った劇世界であるという実感がある」などの意見が出た。

​劇の虫「かかす」
劇の虫「かかす」

《後夜祭での講評の論点》

・訓練して「下手面白さ感」を出してほしい。

・作者にとっては人間もからすもダンプカーも一緒なんだと思った。舞台上の物や人が「役に立たない」という一点で共存している。その役に立たない連中のひとりごとを作者は聞き続けるのだという優しさのような何か。

・畑に色々な人がやってきては去る。重要なのは「ごみ」。「ごみ」と受け取られかねない危うさ。だからこそ面白い。

・見ている側にかなり委ねている。なぜか、考え続けると良いように見えてくる。

・どこかで綴じて提示してもらえたらよかったのでは。

・うまく伝わらないものをうまく伝えようとしてほしかった。わからなさが意図しているものなのかもわからなかった。

​ハードルが低く、ひらかれているという感覚を覚えた参加者が多かったようだった。また、観客との関係形成・了解ができていたというのに対し、講評会ではそのような言及はなかったため、これが一体何故なのか考えたいとも感じる。

​総括

 ウイングカップ9後夜祭の直前にこの企画を行ったおかげで、自分の感覚・考え・価値観と実際に審査された審査員の方との相違点が明らかになってその点において非常に興味深かった。本来は上演が終わってすぐにこのような議論の場を設けるべきだと考えていたのだが、今回に限っては講評会の直前でよかったように感じる。

 また、今回は参加者が演劇の「作り手」である方々がほとんどで、ゆえに「もっとこうすればおもしろかった」などの意見も多く出た印象を受ける。そのため、この企画は参加者の立ち位置によって大きく内容が左右されるのだということを実感した。

 今回の「Update vol.1」が、参加者の方々(作り手の方々)がにとって「自分は何を面白いと思っているのか」という命題に対して深く考えられることにつながったのであれば、この企画は成功と言えると思う。そして今後は「観る側」の人も含めて、作り手は自分の考える面白さを進化/深化させてゆき、観る側は様々な視点で作品を観て、作品に新たな価値を見出せるようになればいいと思う。作り手と観る側、それぞれのアップデートによって演劇全体がアップデートされてゆくのではないだろうか。

2019年2月6日 中筋捺喜(うさぎの喘ギ)

 

※講評会での意見は、中筋個人が書き留め、まとめたものです。主観が入らないよう注意はしましたが、審査員の方々の本意とは異なる場合があります。その点ご留意ください。恣意的な切り取り方はしていないつもりですが、このまとめが審査員の方々の意見のすべてだとは考えないでください。

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